日経Bizアカデミー

グローバルマーケティング講座
第一回社会的価値によるコモディティ化への挑戦
プロフィール
1967年生まれ。90年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本コカ·コーラ入社。2000年にマーケティング本部コーヒーグループマネジャー、02年にブランド2グループ統括部長、03年に同バイスプレジデント。08年ザ コカ·コーラ カンパニー RTDティー&コーヒー担当 グローバルシニアディレクターを経て、2010年より現職。
プロフィール
1968年大阪府生まれ。91年岡山大学法学部卒業後、P&G入社。日用雑貨、医薬品、化粧品等のブランドマネジメントを担当、 01年に化粧品部門マーケティング・ディレクター。03年マースジャパンを経て、06年に日本コカ·コーラ社入社。マーケティング本部ウォーターカテゴリー、新規事業グループを経て08年より再びウォーターカテゴリー担当、2011年より現職。
プロフィール
1959年神奈川県生まれ。82年早稲田大学商学部卒業。その後、同大学大学院商学研究科へ進学。同大商学部専任講師、助教授を経て96年教授。2008年商学学術院長・商学部長。専門はマーケティング戦略。主な著書に『競争優位のブランド戦略』、『マーケティング』、『コモディティ化市場のマーケティング論理』など。
プロフィール
1957年新潟県生まれ。79年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。経営学修士、工学博士。97年立教大学社会学部産業関係学科助教授、98年同学教授。2005年早稲田大学商学部教授。主な著書に『プロモーション効果分析』、『価格・プロモーション戦略』(共編著)『マーケティング・サイエンス入門』(共著)など。
第6回セミナーレビュー「コモディティ化脱却の方策を探る」
10月20日、早稲田大学にて、コモディティ化市場への対応策についてのセミナーが開催され、200名以上が参加した。講師はWeb講座第1回から4回に登場した4氏が務めた。初めに、各氏が自己紹介と共にWeb講座で述べた内容の要点を改めて紹介し、これまでの考察を再確認した。そして、第5回で発表された2つの課題に対する回答を基に、4氏による議論が展開された。
本質的価値を見直す柔軟な姿勢がコモディティ化脱却の糸口に

【課題①】 コモディティ化からの脱却に成功したブランドの例を1つ挙げてください。コモディティ化からの脱却のためにそのブランド(商品)がとった施策と 何故それが有効だったかも併せて記述ください。

回答として多く挙げられた企業およびブランドは、ユニクロ、アップル、スターバックス、旭山動物園、などだった。回答を分類し、守口氏が「コモディティ化脱却の軸」を提示することからディスカッションがスタートした。

守口 消せるボールペン「フリクションボール」やロボット掃除機「ルンバ」は、技術による機能向上によってコモディティ化脱却を果たした例ですが、その機能がコア機能とはまったく異なる発想の機能であることがポイントといえます。朝専用の缶コーヒー「ワンダモーニングショット」や携帯用電動歯ブラシ「ポケットドルツ」は、時間や場所をあえて絞り込んで用途を限定することによって差別化を果たしています。

写真 恩蔵 マーケティングの基本であるSTP(セグメンテイション、ターゲティング、ポジショニング)ができていなければ、ブランドや商品が埋もれてしまうのは間違いない。「ワンダモーニングショット」や「ポケットドルツ」はSTPをきちんと見直すことによって生まれた好例ではないでしょうか。また、消費されたあとまでのプロセス全体を見直し、新たなソリューションを提案することでコモディティ化脱却も可能。「フリクションボール」や「ルンバ」はそれに当てはまるかもしれません。いずれも時間感覚や本質的価値を見直す柔軟な姿勢によって生まれた商品だと思います。

守口 注ぎ口から空気が入らない家庭用醤油「ヤマサ鮮度の一滴」は、醤油そのものの価値を変えずにパッケージの工夫によって差別化した商品。中身の水自体は基本的に同じものでありながらパッケージの変革によってヒットした「い・ろ・は・す」と同タイプの脱コモディティ化と捉えることもできます。また、コンタクトレンズの月額定額制サービス「メルスプラン」は、物販からサービスへとビジネスモデルを転換した点が画期的。これもコモディティ化脱却の1つの軸といえます。

写真 福江 回答ではユニクロという答えの多さがひときわ目立っています。ユニクロというブランドは、それ自体がよい品物を安く作って在庫を残さずに売るための独自のビジネスモデルでもあります。製造から物流、販売、さらにはその後のサービスまでを見直し、再構築しているという点で突出した存在だと思います。

篠原 ユニクロはかつてやや年配の層に向けたブランドでしたが、うまく若者向けにイメージを変えました。この戦略で重要なのはターゲティング&アップトゥデート。そして、アップトゥデートに必要なのはレリバンシー(関連性)とユニークネス(唯一)です。「ヒートテック」に代表されるように、ユニクロはファッションにテクノロジーをクロスさせるという手法でアップトゥデートしています。また、アーティストとコラボするなどレリバンシーとユニークネスを巧みにコントロールしているという印象を受けます。

恩蔵 第1回で取り上げましたが、機能的価値+情緒的価値+社会的価値のマーケティング3.0の考え方は、コモディティ化している多くのプロダクトやサービスにとって有効だと思います。たとえプロダクトそのものが完全にコモディティ化していたとしても、売り方で差別化できる可能性もある。高度な製品でコモディティ化した例にジェットエンジンがありますが、GEはメンテナンスと組み合わせた売り方で差別化を図りました。そのような新たなソリューションも、脱コモディティ化への道といえるでしょう。
バリューチェーンのどこにバリューの源泉があるかを見極める
【課題②】コモディティ化に悩んでいる商品カテゴリーを1つ挙げてください。 その実態や課題だと思われる点についても併せて記述ください。

回答として多く挙げられた商品カテゴリーから「テレビ」と「お茶」がテーマに選ばれた。一般参加者も交えて、テレビが抱える問題点などについてディスカッションが始まった。

写真 守口 テレビやPCはそこに何を映すか、それで何をするかが問題であり、相当な技術的優位性がない限りハードだけで差別化することは難しい。使い方の提案、ソフトの部分までいかないとなかなか道は拓けないような気がします。

恩蔵 皆さんのお話を聞いていて、YKKの経営層から聞いた話を思い出しました。YKKは世界の高級ファスナーのシェア約8割を占めています。YKKが怖れているのは“ファスナーに代わる何か”だそうです。生地をつなぎ合わせるものは他にも紐やボタン、ホック、マジックテープなどがありますが、ファスナーが圧倒的に便利です。でも、それに代わるものが登場する可能性は常にあるわけです。レコード盤からカセットテープ、携帯音楽プレーヤーに変わったように、テレビも何かに置き換わるかもしれません。しかし、本質的には何も変わらず存在してきたことに問題があるのかもしれません。

参加者(男性) iPadなどのタブレットを利用したり、ユーチューブなどテレビ放送以外のコンテンツを観る機会が増えています。視聴スタイル自体が多様化している今、テレビの機能的価値は下がっているように感じます。

篠原 機能的価値の前に、ライフスタイルでの価値が弱くなってきているのではないでしょうか。かつてテレビを観ていた時間が、iPadで動画を観るなど他のことに費やされている。情報を獲得するだけではなく、共有する、加工するなどの価値を得るためにリプレイスが起きたと考えることができます。でも、この状況を悲観するのではなく、クロス・インダストリーの発想で考えていけば、何か解を見つけられるかもしれない。もし解が見つけられたら、逆に大きなチャンスになる。ライフスタイルをきちんと見直すことで、テレビのポジティブな未来もあるんじゃないかなと思います。

福江 私は開発のあり方を見直すことも必要になっているんだと思います。一眼レフカメラはそれほどコモディティ化が進んでいないと聞きましたが、それはトップメーカーがレンズや反射ミラーの分野で他社がまねできない高い技術を持っているからだと聞きました。技術者は新機能を早くたくさん盛り込もうとしがちですが、すぐに技術がコピーされ陳腐化してしまう今、それは得策ではありません。独自性のある高い技術は早い段階から守ることも注力し、きちんと“私たちだけ化”してから世に出すことも大切だと思います。 また一旦世に出して成功を確認した後はスピードを持って大きく展開することも大事です。日本発の「い・ろ・は・す」コンセプトはその後、世界のコカ·コーラシステムで展開されています。いち早く取り入れたメキシコでは大きな成功を収めています。

写真 参加者(女性) 家電では特に、消費者を置き去りにした開発が長く続けられてきているような気がします。ハイスペックなものづくりに執着せず、時には方向転換することも大切ではないでしょうか。

守口 これから家電では、バリューチェーンのどこで利益をあげるのかを考えることが重要になると思います。必要な部品を集めて組み立てる会社が利益を生み出す時代は終わり、テレビのバリューの源泉は変遷しています。商品企画、部品の生産、組み立て、流通、テレビならソフトの供給まで、すべてのプロセスの中でどの段階がバリューを生んでいるのかを見極め、方向転換していくことも必要だと思います。
競合商品と比べられる存在であっても未来はない

活発な議論が展開されたあと、テーマは「緑茶」に移った。初めにティーカテゴリーのマネジメント経験もある篠原氏が口火を切った。

写真 篠原 日本の飲料市場で緑茶は最大のカテゴリーです。そこで「綾鷹」がいかに差別化を図っていったかをご説明します。「綾鷹」は機能的価値でしっかり差別化しようと心がけました。緑茶は誰もが親しんでいる飲み物なので、ベースの価値観できちんと支持してもらえなければ始まらないからです。さらに、その差別化はすでに山ができている競合製品と比べられるものであってはならない。違った山をつくるべきだと考えました。狙ったのは競合製品ではなく、家で飲む、急須で淹れたお茶です。それをライバルに見立て、可能な限り近づけることに力を注いだのです。家で飲むお茶のような濁りをもたせるために、通常のお茶系飲料の生産では必ず実施する濾過をあえて行っていません。

守口 コカ·コーラ アメリカ本社の元社長が、コカ·コーラのシェアを水道水も含めた飲料の総市場で見ていたという話を思い出しました。ライバルをどこに設定するか、カテゴリーをどう定義するかによって、コモディティ化しているかどうかは変わってくると思いました。

恩蔵 緑茶はコモディティ化しているといわれていますが、慣習的な価格で安定していて価格競争には陥っていません。どうもテレビのような家電と飲料系では、コモディティ化のメカニズムが根本的に違うようにも思います。

篠原 コモディティ化には、ブランドとカテゴリーという2段階があるのではないでしょうか。カテゴリー間での競争優位性が失われれば、カテゴリーに属する全ブランドが同様に価格が落ちますし、ブランド間で競争優位性が失われれば、該当のブランドの価格が落ちることになります。緑茶の場合は、綾鷹、おーいお茶、伊右衛門等の値差は大きくないので、主要ブランド間での優位性は均衡しているといえると思います。いずれにしても、コモディティ化はブランド間とカテゴリー間で分けて考える必要があるのかもしれません。
消費の機会を生むことがイノベーションである

守口 かつてテレビは技術力で差別化されていました。ペットボトル飲料も黎明期には技術に差があり、それが商品の差別化につながっていたはずです。ただし、テレビに比べると、飲料製品における技術力の差はすぐに縮まってしまった。だから、飲料では早くから機能的価値だけではなく、情緒的価値や社会的価値の付加に力を入れてきた。テレビは今ようやく機能的価値では差別化できないことに気づいたという状況とも考えられます。

写真 参加者(男性) プロダクトのライフサイクルが短くなってきています。メーカーは新技術で優位に立っても、成功事例でリターンを得られる期間が短いためなかなか収益につながらず、次々とイノベーションを生み出す必要性に迫られるというジレンマがあります。そこで、技術はそのままで、ブランドを立ち上げることで差別化を図ることにやはり魅力を感じるのですが。

篠原 コカ·コーラでは規模を奪い合うのではなく、消費の機会を生むことをイノベーションだと考えています。ブランドを立ち上げることは機会創出の有効な方法です。ただし、世界に占める日本のGDPレベルが下がり、日本単体での経済優位性が薄らぐ現在においては、インターナショナルなブランドとして開発段階から意識する必要があります。そこで重要なのは、繰り返し出てきている機能的価値と情緒的価値、そしてコカ·コーラでいうところのライフスタイルでの価値であったり社会的価値を、ユニークかつユニバーサルに構築することです。その上で、途上国では機能的価値の伝達が有効かもしれませんし、かたや先進国では情緒的価値と社会的価値の伝達が有効かもしれません。機能価値、情緒価値、社会価値の3つの価値を規定し、地域に応じてどの要素を強くコミュニケーションをとるべきか検討すれば、ブランドとしての一貫性を保ちながら、エリア特性を加味することが出来、日本発の世界中で通用するブランドがもっと増えると思っています。

写真 福江 ブランドはうまく立ち上がったからといって安泰ではありません。「い・ろ・は・す」でも導入以降、植物由来ペットボトルを業界に先駆けて採用したり、新容器(1020ml)やフレーバー・ウォーター(みかん・りんご)を導入したり、採水地を5ヵ所から7ヶ所に増やすなど、 常に新しいトピックをつくり出しながら、こまめにエコを伝えるイベントを催すなどコミュニケーションはかなり綿密に実施しています。日本のようにコモディティ化が進展した社会では、このような継続的な努力が不可欠だと実感しています。そして、忘れてはならないのは、やっていいこととやってはいけないことを明確にすること。短期的に売上が伸びるとしてもやってはいけないことがある。そこに一貫性をもっていないと、決してブランディングは成功しないでしょう。

参加者(女性) 私はメーカーで開発と販売を担当しており、コモディティ化からの脱却とコスト削減という使命を受けています。ある意味この2つの使命は矛盾しているように見えますが、「綾鷹」も「い・ろ・は・す」も2つの使命を見事同時に解決しています。「綾鷹」は濾過の工程を省くことで機能的価値の差別化を果たしていますし、「い・ろ・は・す」はボトルを軽量化しながら社会的価値を付加しています。非常にうまいなと思うと同時にずる賢いなと感心してしまいます。とはいえ、消費者はいずれ栄養などの直接的な利得にしかお金を払わなくなるような気もします。

福江 消費者にとって価値あるものを提供することが重要だと思っています。「い・ろ・は・す」はボトルを軽量化することで絞って小さくすることが出来るという新しい価値を提供しましたが、コスト削減・軽量化だけが目的でしたら、もっと出来たのに、敢えてそこまで軽量化しないようにしました。それは容器としての基本価値を損なわないということです。例えば海外などではもっと軽量のボトルがあるのですが、キャップを空けたとたん容器がフニャッとしてしまう製品があります。これは容器の中にガスを入れて形状を安定させているからですが、そうすると飲むときに、こぼれやすくなったり持ちにくかったりするので、日本の消費者には良くないということで採用していません。また見えないところでは、昨年の震災以降、天然水の安全性について多く問い合わせを頂くようになりましたが、「い・ろ・は・す」はコカ·コーラの基準にのっとり、日本の水道法の検査基準項目50を大きく上回る280項目以上の検査を行っています。こうした事はコスト削減とはなりませんが安全という消費者価値を提供するものとして、実直に行っております。

篠原 ブランドとは何か。コカ·コーラでは信頼です。つまりお金に対して提供するのは信頼で、コカ·コーラのラベルが付いていることの安心感です。ですから、我々が絶対にやってはいけないのは嘘。新しい価値観を定義してうたってもだめです。消費者が思っていることに嘘はありませんから、そこに全力で近づけることが大切なのです。それに、多様化に対応して分散化することも推奨できません。分散化すれば消費者の記憶にも残りにくくなりますし、メーカーの本気度も小さく見えてしまう。ひいては信頼も小さくなってしまうのです。

恩蔵 決してずる賢いわけではないそうです。今日は有意義な議論が展開できたと思います。みなさん、ありがとうございました。
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